1.民法改正について

2020年4月1日より、改正民法(2017年5月成立)が施行されました。この改正は契約法全般に亘って抜本的な見直しがなされる大改正となりましたが、その中でも、「保証契約」については、身近な様々な契約に影響を及ぼすもので、多くの市民の皆様、企業の皆様におかれましても、必要な知識として是非ご留意頂きたい内容が多く含まれています。

2020年4月1日以降に締結(又は合意更新)される保証契約について改正後の規定が適用されますので、今後、保証人に関する何らかの契約を作成される場合には注意が必要になります。

 

2.極度を定めない個人の根保証契約は無効

まず、個人が将来発生する不特定債務の保証人(根保証人)になる場合、従前は、「連帯保証人は主債務者が本契約に基づいて負う一切の債務を負担する」というような包括的な上限を定めない保証契約(包括根保証契約)が、賃貸借契約その他の多くの保証契約の典型的な文言として利用されていました。

しかし、民法改正施行後は、主債務の種類を問わず、個人が根保証人となる場合、「極度額」(上限)を定めなければ、保証契約自体が無効になることになりました。身近なところでは、「賃貸借契約の保証人」、労働者が雇用される際にご親族等に提出頂くことの多い「身元保証書の保証人」、「病院の入院費等の保証人」などが挙げられます。

ですので、今後、このような保証人になることを求められた方は、契約書上、上限額が定められているかどうか、その上限額が自分の将来負担可能な範囲の額であるかどうかをしっかりと注意した上で、保証人になることをお勧めします。

また、保証人を求める側の大家さんや事業主その他の債権者の方々は、今後は、従前の書式(包括根保証契約)のままではなく、契約書の書式上、極度額を定める形に変更して頂く必要があります。

債務者本人が支払不能になった後に、いざ保証人に請求したら、上限を定めていないので無効ですと言われてしまうと、せっかく保証人を取った意味が無くなりますので、重大な損害につながりかねないと言えます。

 

3.法人代表者やその親族が事業債務の保証人になる場合の留意点

企業活動の中で法人の代表者やそのご親族が事業上の債務の保証人になられるような場合も多いですが、この点に関連する事項としては、上記の点も含め、特に以下の事項には留意が必要です。

(1)たとえ、法人の代表者が法人の債務を保証する場合であっても個人の包括根保証契約は無効になります(代表者は会社の一切の債務を保証するのが当然というイメージもありましたが、青天井に債務を負うという包括根保証契約が禁止されることに変わりはありません)。

(2)事業のために負担する貸金等債務について、法人の役員等以外の第三者(事業に関与していない個人)が保証人になる場合、根保証に限らず保証契約全般において、「公証役場での意思確認」を経ていないと保証契約が無効になります。

例えば、会社が貸金業者から事業資金の借入を行う場合に、代表者の親や配偶者等の親族(役員でも株主でも無い方)に保証人になってもらうというような場合が挙げられますが、公証人があらかじめ保証人本人から直接その保証意思を確認しなければ保証契約の効力を生じないことになります。

事業資金融資の第三者保証の場合で、例外的に公証人による意思確認を必要としないのは、以下の①~③のような立場の方です。

①  主債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役等
②  主債務者が法人である場合の総株主の議決権の過半数を有する者等
③  主債務者が個人である場合の共同事業者又は主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者

 

4.保証人への情報提供義務

また、以下のとおり、保証人への情報提供義務も強化されています。

①事業債務に関する保証契約締結時には、主債務者の財産・収支状況・他の債務の額や履行状況・担保の内容等を提供させることが主債務者に義務付けられました。

→情報提供義務違反の場合に、保証人が主債務者の財産状況等について誤認し、情報不提供の事実を債権者も知ることが出来たようなケースでは、保証人は保証契約を取り消すことができます

②保証契約締結後も、保証人(主債務者から委託を受けた保証人)から聞かれたときは、主債務の履行状況について債権者は情報提供義務を負います(不履行の有無、残額、弁済期が到来している残額等)。

③主債務の期限の利益喪失時(分割弁済を怠る等して一括弁済を請求される状態に至ったとき)には、債権者は2か月以内に保証人に通知しなければなりません。

→通知義務違反の場合に、債権者は、通知をするまでに生じた遅延損害金を保証人に請求出来なくなります

 

5.改正に対応した参考書式

保証額の上限を記載する書式例としては、以下の第2項のような条項が考えられます。

また、事業債務の保証について締結時に提供する情報については、以下の第3項のような条項例が考えられます。但し、第3項はこのように記載するだけでなく、実際に提供した内容を別紙として契約書に添付する等しておくと望ましいです。

 

第○条 連帯保証人Cは、主債務者Bと連帯して、本契約から生じるBの債権者Aに対する債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。

2 前項のCの負担は、極度額○○○万円を限度とする。

3 Bは、Cに対し、次に掲げる事項に関する情報を提供したことを確認する。
(1)Bの財産及び収支の状況
(2)Bが主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
(3)Bが主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

 

6.極度額はいくら(何円)位にしたら良いか

例えば、賃貸借契約に関しては、平成30年3月30日付で国土交通省住宅局住宅総合整備課が作成した「極度額に関する参考資料」というものが参考になります。

当該資料のうち、家賃債務保証業者に対する損害額の調査結果によれば、例えば、賃料8~12万円の物件において家賃債務保証業者が借主に代わって貸主に支払った家賃その他の損害額(原状回復費用、損害賠償費等を含む)は、平均値で50万円、最高額が418.6万円とされていますが、他方で当該賃料価格帯の調査対象案件の約99.9%は300万円未満の損害額とされています。

また、調査対象となった平成9年~28年に裁判所(主に東京地方裁判所)の判決(91件)において民間賃貸住宅における借主の未払い家賃等の連帯保証人の負担として確定した額は、平均で家賃の約13.2ヶ月分、最大で33ヶ月分ということです。

そうすると、従前の相場を前提とした平均的な状況であれば、家賃10万円程度の物件なら300万円程度以上を極度額として設定すれば、大家さん側としては比較的安心できるかもしれませんが、あくまでケースバイケースですので、最終的には当該保証人の方との協議の中で決められるべき内容かと思われます。

その他の契約の場合も、当該主債務者が負うことになるであろう金額を想定して、最大値に近いところで極度額を設定するのが債権者側では望ましいということになろうかと思われます。他方で、保証人側としては、債権者の希望する極度額が自分の経済力に照らして無理が無いかを慎重に考え、主債務者等から提供された情報等も踏まえてご納得の上で保証契約を締結することが、後々の紛争を防止する意味でも重要かと思われます。

弁護士 今井史郎